「ルーの変てこな日」

ある村にルーという名前の犬が住んでいました。ちょっぴりおく病だけど心の優しい犬でした。
ひとりで散歩をしていた時のことです。地面でバッタが昼寝をしていました。ルーの足音に気がつくと、バッタは急いで地面からピョンと大きく飛びはねました。驚いたのはルーの方です。いきなり目の前をさっと何かが横切ったのですから。ルーはヒェーっと声をあげて、斜めに大きく飛び上がりました。
たまたま、近くの畑にいた村の男が、そのルーの驚く姿を見ていました。ゲラゲラと笑い転げて言いました。
「犬のくせに臆病なやつだなあ。これは笑えるぞ。みんなにも話してやろう」
その話は村中に伝わりました。それからというもの、村のみんなが自分のことを臆病な犬と言って笑っているに違いないとルーは思うようになりました。胸のあたりが冷たく、ずしっと重くなっていきました。

ある日の朝のことです。ルーはお母さんに隣の村までおつかいを頼まれました。道を歩いていると、向こうの方に背中をむけているネコが見えました。なにやら体を上下に揺らしています。
「こんな朝早くから音楽でも聞いて踊っているのかな?のんきなネコだなぁ」
 ルーは体を低く地面に近づけて、そーっとネコに近づいていきました。ネコは自分に全く気づいていないようすです。
とうとう、ネコのすぐそばまでやってきました。ネコは体を時々、ピクンピクンと上下に動かしています。
「こんなそばにいるのに気がつかないなんて。ほんと間抜けなネコだな。」
ルーはにやりとしました。
ネコの耳元でスーと大きく息をすいこみました。そして、大きな声で叫びました。
ワン!ワワワン! ワン!ワワワン!
100メートル先の家の中の人でも聞こえる位の大きな声です。
さすがのネコも突然、耳元で大きな声がしたので、ウワーと両手をあげて驚きました。そして体をのけぞらすと、背中から地面にバタンと倒れてしまいました。目を大きく見開いてルーを見上げています。ルーはネコの顔をのぞきこみ、ニターと白い歯を見せて笑いました。ネコは立ち上がると目を細めて嬉しそうに笑っています。
「助かったよ。昨日からしゃっくりが止まらなくってさ。おかげで、やっとしゃっくりが止まったよ。ありがとう。」
そう言われてルーは困った顔をしました。
本当はこう言ってやるつもりだったのです。
「驚きすぎだよ。君は臆病なネコだね。」って。でもネコにそんな風にお礼を言われたものですから、ルーは仕方なく言いました。
「ああ、そうかい。それはよかったね。」
ルーは変な気持ちのままネコと別れました。振り返るとネコはまだニコニコして自分を見送っていました。

お日様は空の一番高い所からルーを見下ろしています。畑の方に行くとクワもったごんべいじいさんが見えました。麦わら帽子をかぶって、タオルで汗を拭いていました。
そうだ!ルーはにやっとしました。ルーは昔、畑の中を走り回って、ごんべいじいさんを怒らせたことがあります。また畑を走って怒らせてやろう!
ごんべいじいさんの顔をちらちら見ながらルーは畑の中を走りまわりました。おじいさんはそんなルーを静かに見ています。
耕したばかりの、ふかふかとした土の上に、ルーの小さな丸い足跡がポツポツとついていきます。
ルーは畑の端から端まで自分の足跡をいっぱいつけてやりました。ベタベタベタ・・・
ルーはごんべいじいさんの顔を見ました。すると、ごんべいじいさんは怒っているどころか、にこにこと笑っています。
あれ?ルーはきょとんとしてしまいました。
ごんべいじいさんは言いました。
「ルー。ありがとう。トウモロコシの種をまく穴をあけてくれて。トウモロコシができたら、一つやるから食べにおいで」
くれなくたって、勝手に来て、たくさん食べてやらあ。と内心思いましたが、
「うん。こんど一つもらいにくるよ」と言いました。
ルーは今まで味わったことのない気持ちになりました。胸のあたりがなんだかポカポカしています。
 
ルーはお母さんからたのまれたおつかいをすませました。お日さまが遠く向こうの方に歩いていく後ろ姿が見えました。お日さまも疲れて自分の家に帰られるようでした。ルーも家に帰ることにしました。細長い黒い影もルーの後をトボトボとついていきます。
だんだんと薄暗くなってきました。むこうの山の方から黒い影がルーに近づいてきます。ぐんぐん大きくなってきます。ようやくはっきりと顔が見えました。走ってくる知らない男の人でした。手に何かを持っています。ルーの目がキラリと光りました。
「今度こそ・・・」
ルーは男の人の方に勢いよく走っていきました。すれちがいざまに、男の人が手に持っていた物を口でパクッと奪いとりました。すると男の人はつんのめってバランスをくずして、その場に倒れてしまいました。
「やった〜」
ルーは今度こそ、やっと、いたずらが成功したと思いました。調子にのって、その男の人の体の上にぴょんと乗っかりました。勝利の印です。
 「えらいぞ!ルー!泥棒を捕まえるなんて!」
後から走ってきた村のおまわりさんの声でした。おまわりさんの後から女の人も一緒に走ってきました。以前、ルーがバッタに驚いて飛び上がったのを見て「臆病な犬だ」と笑った男の人の奥さんでした。
「財布を取り返してくれてありがとう。ルーは勇気があるのね。」
そう言うと、ルーの頭を優しくなでてくれました。
今日は全く変てこな日です。いたずらをしてお礼を言われてばかりでした。なにもかもあべこべでした。前に臆病だと言われた自分も、勇気があるとまで言ってもらえました。ルーの胸のあたりがまたポカポカといつまでも暖かくなっていました。(おわり) 白鳥鈴奈作




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このお話は愛犬ルーがモデルです。写真もルーです。実際に臆病です。
散歩中に道に寝ていた蝉が目の前を急に横切って飛んで、驚いたルーが横に高く飛び上がったのを見て、
たまたま一緒にいた友達が情けないと笑ったエピソードをもとにしました。
今13歳。まだ元気いっぱいです。これを書いている今も私の足元にいます。